翻訳AIの得意と不得意
AI翻訳は、外国語の記事やメールの内容を素早くつかんだり、自分で訳す前の下訳を作ったりするのにとても役立ちます。文法的に正しく自然な文を作る力もかなり高いものです。しかし翻訳は単語の置き換えではなく、状況を移し替える作業です。誰が誰に向けて言っているのか、その社会でどう聞こえるのかは原文に書かれていないことが多く、AIはその空白をもっともありふれた選択で埋めます。ずれの多くはここから生まれます。だからこそ、内容を理解するために読む翻訳と、人に送るために作る翻訳は分けて扱うべきです。前者は多少ぎこちなくても構いませんが、後者は口調一つが関係や信頼に影響します。
敬語が揺れる理由
英語の「ユー」は、相手が友人でも取引先の社長でも同じ一語です。これを日本語や韓国語に訳すには敬語の度合いを選ぶ必要がありますが、原文にはその情報がありません。そのため一つの文書の中で丁寧語と普通体が混ざったり、目上の人にくだけた文が出てきたりします。日本語には相手を高める尊敬語と自分を低める謙譲語があり、さらに複雑です。逆に日本語の敬語を英語にすると、丁寧さは単語ではなく文の組み立てで表す必要があるのに、ただの平板な文になることがよくあります。
先に文脈を伝える
翻訳を頼むときは原文だけを入れず、状況も書き添えましょう。同じ文でも受け取る人によって訳し方は変わるべきです。次の情報を前に付けると、敬語の度合いと口調がずっと安定します。
- 読み手:初めて連絡する取引先の担当者、親しい同僚など
- 関係:こちらがお願いする立場か、案内する立場か
- 改まり度:公式文書、業務メール、チャットのどれか
- 口調の指定:「です・ます調で統一」「丁寧だが堅すぎず」
- 用語:決めてある製品名や役職名の訳があれば一覧で
文化の文脈で起きるずれ
意味は合っているのに、相手には妙に聞こえることがあります。断りや不満をどれだけ遠回しに言うかは言語によって違うため、直訳すると失礼すぎたり、逆に何が言いたいのか分からないほど曖昧になったりします。慣用句やことわざは字面どおりに訳されて意味が失われがちです。呼び方も落とし穴です。名前の後ろに付ける敬称、役職の呼び方、姓と名の順序は言語ごとに異なります。時候のあいさつや結びの言葉のような決まった部分は、訳すよりその国のやり方で書き直すほうが自然です。
逆翻訳で確かめる
訳文をもう一度元の言語に訳し戻す逆翻訳は、意味が大きく外れていないかを確かめるのに役立ちます。否定文が肯定文になったり、主語が入れ替わったりする誤りを見つけられます。ただし逆翻訳が自然でも、訳が良いとは限りません。敬語の度合いやぎこちない口調は、訳し戻すと消えて見えなくなるからです。大事な文章は原文と訳文を一文ずつ並べて照らし合わせ、できればその言語に詳しい人に一度読んでもらいましょう。
数字・名前・書式は別に確認
翻訳で意外によく間違えるのが数字と固有名詞です。日本語と韓国語は大きな数を万の単位で区切り、英語は千の単位で区切るため、大きな金額では桁がずれることがあります。日付の順序や時刻の書き方も国によって違います。人名、社名、地名が意味で訳されたり、つづりが変わったりもします。翻訳が終わったら、金額、日付、数量、連絡先、名前を原文と一つずつ照合してください。単位の違う国に送る文章なら、換算も自分で確かめる必要があります。
AI翻訳に任せてはいけない文章
契約書、利用規約、医療情報、法律文書、役所や学校に出す公的書類は、翻訳の誤りがそのまま損害や不利益につながりかねません。内容を把握する参考として使うのは構いませんが、最終版は専門の翻訳者やその分野の専門家に確認してもらいましょう。提出先によっては認定翻訳や公証を求められることもあるので、公式の案内を確認してください。また、翻訳のために入れる文書に個人情報や社内の機密があるなら、そのサービスに入れてよいのかをまず考える必要があります。
送る前の確認
訳文を実際に送ったり公開したりする前に、次の点を確かめましょう。時間がないときほど、この四つだけは守るのがおすすめです。
- 敬語の度合いと口調が最初から最後まで一定している
- 数字・日付・名前・単位が原文と同じ
- 慣用句やあいさつがその国のやり方で自然
- 大事な文章はその言語が分かる人が一度読んだ
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